【5. 非日常編】新聞奨学生の闇?きつい?やばい?自力で大学へ通ってみた。

2022年12月11日日曜日

お父さんの思い出

t f B! P L
ふり返るあの頃「新聞奨学生」

朝起きて、朝刊配って

大学行って、夕刊配って

土曜日はセールスに出て

25日には集金が始まって・・・

365日、同じことの繰り返し。

平穏で単調な連続かと思いきや、

四季折々、環境の変化によって、

時には非日常と化す瞬間がある。

続・二〇世紀末頃の新聞奨学生事情。

から続く。

この記事で判ること

    新聞奨学生の非日常

  • 自然の猛威に立ち向かう
  • 日々の配達に潜む危険

台風に挑む

雨が降ろうが、槍が降ろうが、新聞配達は休めない。

もちろん、台風も例外では無い。

北海道出身のボクは当時、

台風の直撃を経験したことがなかった。

もの凄い風と、信じがたい雨量。

この中をバイクで配達に出るんですか?


正気ですか?


と思いながらも、配達の準備にとりかかる。

四方八方から雨が遅いかかる暴風雨。

バイクのカバーだけでは新聞が濡れてしまうため、全てビニール袋に入れる。

ビニール袋に包まれた新聞はスルスルと滑るため、配達部数全てをバイクに高く積むことはできない。

部数の半分だけ積んで、残りは「転送」してもらう。

「転送」とは、配達順路の中間地点に、そこから配達する分の新聞を送り届けておくこと。

新聞をバイクに一度に積めない場合に、主任が車で対応してくれていた。

バイクに新聞を積み、厳重にカバーをかけ、カッパを着て、長靴を履く。

このカッパが夏は蒸れて、いつしか臭くなっているので、あまり着たくはないのだが、着ないわけにもいかない。。

そんな雨天時のフル装備で暴風雨の中へ


いざ、出陣!


まるで荒海へ漁へ出る船乗りの気分だ。。

たぶん。

ビチャ!ビチャ!ビチャ!ビチャ!

顔面が無防備なヘルメットなので、速度を上げれば上げるほど、大粒の雨が顔面に強く叩きつけられる。


もの凄く痛い


いでっ いでででででーっ


時折吹き付ける暴風には、バイクごと薙ぎ倒されそうになる。


怖い


気がつけばカッパの中までびしょ濡れである。

臭いだけであまり意味のないカッパである。


ザーっ

というか

ゴーっ

という轟音と衝撃が全身を襲う。

まるで滝に打たれているようだ。


大きな道路へ出た。

道路は川のような状態。

対向車線に大きなトラックが、猛然と水飛沫を巻き上げながら走ってくる。

かわせない。

うわ。。うわうわ

うわうわうわっ


どぱーーーん!


すれ違いざまに、大量の水飛沫をぶっかけられた。

大波にさらわれ、難破するかと思った。

もはや、パンツの中までずぶ濡れである。

へとへとになりながらも「転送」地点へ到達。

追加の新聞を積み込む。

次の配達先まで、いい感じの直線。

少しでも遅れを取り戻そうと、バイクを加速した。

すると、後輪がヌルッと横滑りし出した。

えっ?

なになにどした〜!?

ぁあ〜・・・

パニックに陥る中、バイクがみるみる後輪から体勢を崩していく。。


ズシャーーー!


ボクとバイクと新聞が、四方八方に投げ出された。

慣性の法則に抗うこともできず、虚しく対向車線にはみ出していった。

数メートル放り出されて止まった。

仰向けのボクに暴風雨が容赦なく降り注ぐ。

どうやら無事なようだ。

身体を起こしてあたりを見回すと、大雨の中、誰もいない道路の真ん中で、バイクが倒れ、新聞が散乱している。。

我に返り、慌ててバイクに駆け寄る。

バイクを起こし、新聞をかき集める。

ケツが痛い。。

滝のような暴風雨の中で、若干負傷しながらも、配達を完遂すべく、

もう一度バイクに新聞を積み込む。

朝刊配達だったので、車通りがほとんど無くて助かった。

日中だったら、対向車に衝突して無事ではなかっただろう。。


新聞も全てビニール袋に入れていたので無事だった。

どうやら、川の様になった路面のせいで、

タイヤと路面の間に水の膜ができて横滑りしたようだ。

ヘルメットの重要性も、身をもって実感した。

気を取り直して、バイクにまたがる。

バイクを倒したせいで、足を置くステップが、V字に反り返っている。

足を乗せにくい。。

運転しにくい。。

滝のような暴風雨を全身に受けながら、辛くも配達を終え、文字通り満身創痍で帰還。

台風でも新聞屋さんは死に物狂いで配達しています。

凍結路面で死にはぐる

東京でも冬は、雪が降ることもあれば、朝方には路面が凍結することもある。

とはいえ、たまに凍ることもあるというレベルなので、バイクはフツーに

夏タイヤだ。

なので凍った路面には、気をつけて走らないとならないのだが、たまに出現するブラックアイスバーンには気づき難い。

凍結路面の前に、夏タイヤは

悲しいほどに無力だ。

ある朝の朝刊、一面凍結したスケートリンクのような道路を、

ダンプカーの後ろにくっついて、

両足を地面につけて、

慎重に走っていたのに、

見事に前輪から


ステーン!


と転び、仰向けになったまま

ツ―――――――!

とダンプカーの後ろを滑って追尾したことがある。

この間、何もできず。

やはり慣性の法則には抗えない。


さて、

凍結路面で後輪が滑った場合、後輪から体勢が崩れて倒れる。

ケツと後頭部にダメージを受ける。

倒れ方としては。

夏場でもよくあるケースだ。

しかし、凍結路面で恐ろしいのは、

前輪からもってイかれる場合だ。

この場合、ほぼ何の前触れもなく、

いきなり前から、地面に叩きつけられる。

腕、肩、頭、背中の順で地面に叩きつけられ、

自然と

前回り受け身

っぽい体勢になるが、

全身を強く打つ大ダメージなのだ。

そんな恐ろしい凍結路面だが、ボクはこれらを上回る、

ウルトラC

とも言える、豪快な転倒をしたことがある。

それは真っ直ぐな道路を直進している時だった。

不運にもブラックアイスバーンに突入。

すると、ハンドルが取られ、

完全に右にきった状態になってしまった。

しかし、バイク全体がアイスバーン上にあるため、

慣性の法則で直進は続く。

しかし、ハンドルは戻らない。

そして突然やってくるアイスバーンの終了と通常路面。


完全にハンドルを右にきった状態で

それなりの速度で

アイスバーンから、滑らない通常路面に突然変わったとしたら

一体どうなるか、想像に難くないと思う。


突然、恐ろしいまでの急ブレーキがかかる。

いや、もはや何かに衝突したのに等しい衝撃が走る。

ガンっ

急激にバイクが止まる。しかし、

ボクの身体は慣性の法則に従い、そのまま前方へ、


前方宙返り


の要領で放り出された。

死ぬほどのピンチに遭遇した時、周囲の動きはやたらスローモーションに見える。

バイクの前方上空に放り出されたボクは、

上下逆さまとなり、見上げると地面とバイクが遠ざかっていく。

バイクは後輪が浮き上がり、前転しながら転倒していった。

セールスで使う洗濯洗剤の箱やサラダ油が散乱する様が、ゆっくりと繰り広げられていた。

ボクはそのまま、前方宙返りして、ケツから着地。

着地の瞬間、もの凄い衝撃と共に、スローモーションが終わった。

そのまま地面に全身を叩きつけられ、数メートル地面に擦りつけられた。


ズザーーー!


あまりの痛さに、しばらく動けなかった。

痛みが和らぎ、身体を起こしてみると、転倒したバイクの周りに洗濯洗剤の箱や、サラダ油が散乱していた。。

夜で人通りも無く、車も通らなかったので単独事故で済んだが、本当に恐ろしい体験だった。

呆然としていると、通行人がやってきたので、

さも何事もなかったかのように装い、

散らばった荷物を積んでそそくさと帰路についた。


バイクから放り出され、空中を吹っ飛びながら、

もう死ぬのかな

なんてよぎったが、幸い今回も擦り傷程度で済んだ。

ブラックアイスバーンには気をつけたい。。

大雪で知った極限の世界

地元北海道では、冬に雪が積もるなんてことは当たり前なのだが、

東京では数センチ積もっただけで大混乱だ。

しかし当時、年に1度、成人式あたりに一発、大雪が降る傾向があった。。

それは朝刊配達の時であった。

起きて販売所へ向かうと、ベッタベタのベタ雪が、10センチくらいは積もっていただろうか。。

本当にここは東京なんだろうか?ってくらい一面真っ白であった。


先の話でも触れたが、バイクは夏タイヤである。

年に一度降るか降らないかの雪のために、スタッドレスタイヤなど用意されていない。

しかし、雪の上を夏タイヤで走ろうとしても、滑って前に進まない。

では、どうするのかというと、後輪にチェーンを装着する。

これで、雪の上であっても雪を引っ掻いて、何とか前に進めるようになるのだ。

しかし、普通に走れる訳ではない。

10センチも積もってしまうと、走るというより、アクセルふかしながら、足で漕いで進んでいくイメージだ。

それはそれは、大変な労作業となる。

アクセルをふかしただけでは、雪の抵抗でバイクは進まない。

そこを足で漕いで乗り越えていく。

普段の配達ならものの数分で到着する1軒目に数十分を要した。

しかも、ヌカるんで、安定しない。

一言で言うと


なんじゃこりゃぁあ!


という状況なのである。

強引に進もうと無理やりアクセルを負荷そうものなら、ズブズブの雪にハンドルを取られ、あらぬ方向へもって行かれて転倒する。

同じ区域で他紙を配達している、金髪のヤンキー配達員が、少し離れたところで


クソがー!


と叫んでいる。

倒れたバイクに蹴りを入れている。


怖っ

いつも配達時に遭遇するが、あまり近づきたくないヤツだ。

かわいそ~に、お先に~♪

と、心でほくそ笑みながら、横を通り抜けて、われ先にと進む。

しかし、その先で自分もあえなく転倒。。

積んでた新聞が散乱する。。


マジで


クソがー!


である。

それしか出てこない。

しかし、わめいていても、配達は終わらない。

倒れては、積み直して、漕いで走り出す。

ひたすら、これの繰り返しである。


次の一軒が遠い。。。


へとへとになりながら、配達はやっと中盤。

我が配達区域最大の難所、峠の上の団地へ差し掛かると、信じられない光景が飛び込んできた。

峠の入り口を前に立ち尽くす。

なんと、大雪のため封鎖されているではないか。

しばし放心状態。

しかし、配らなくて良いという話にはならない。

峠の上の団地へは、徒歩で行き来できる通路があった。

当然、階段である。

まるで某漫画の蛇の道のような長い階段だ。

団地で配る部数を小脇に抱えて登りはじめる。

いったい何段あるんだ。。

息も絶え絶え登りきり、団地を配達。

すでに今までに経験の無いほどの疲労を全身に感じる。

しかし、まだ半分ある。

アップダウンの激しい山沿いの住宅地を配る。

バイクで登れない場所は、歩いて配る。

滑って転ぶ。起き上がって配る。

配達も終盤を迎えるころ、時間はとっくに午前10:00をまわろうとしていた。

午前3:00に販売所を出発してから約7時間も大雪と格闘しながらの配達を続けている。

体力は限界を超え、精神力も尽きかけて、とうとう生まれて初めての感覚が芽生えた。


橋の下を流れる川を見下ろした時だった。

あ、なんかもうこのままふわっと



死ねる



いとも簡単に、死んでしまえる気がした。

後にも先にも、こんな感覚を覚えた事はない。

命からがら配達を終えて販売所へ帰還したのは、正午間近であった。

約9時間に及ぶ地獄の荒行。

さらに恐ろしい事に、この2時間後には、夕刊配達が待っているのだ。

正気か新聞屋。容赦がない。

全身筋肉痛の身体に鞭打って、夕刊も配った。

流石にこの日ばかりは、配達が遅いとか、新聞が濡れてるとか、苦情の電話は一本も無かった。

しかし、人間の限界を超えるという貴重な経験は、今を強く生きる糧になっている。

避け難い交通事故

毎日配達に出るということは、それだけ交通事故に遭遇するリスクも高い。

幸いボクは、単独で転倒して死にはぐったくらいのもので、

4年間、対人、対物については無事故だった。

しかし、仲間の中には、交通事故を起こしてしまう人もいた。

5針縫う

同期のサヤカさんは、暗かったためか、停車しているダンプカーに気づかずに突っ込んでしまった。

「女の子なのに顔に傷が!」

と、

周囲が最も心を痛めた事故だったが、本人は気丈に、その後も業務を全うした。

まさかの落とし物

ボクが2年目に後輩として入ってきた通称ヒロチンは、普段から少しぼーっとしている、おっとりとした子なのだが、そんな彼が車と接触し、激しく転倒。

幸い、かすり傷と、手の小指の爪が剥がれるという、わりと軽症で済んだのだが、事故発生時の状況を確認すると・・・

何を聞いても


バイクは無事ですか!?


マキロンが小指の爪に染みるのか

体をよじりながら

なぜかバイクの心配ばかりするのだ。


どうやら、バイクが壊れたら、弁償しないといけないと思ったらしい。

バイクが壊れていないことを告げると、どうやら安心したようだが、

いくら状況を聞いても、事故当時のことを思い出せないらしい。

あまりの衝撃で、記憶を落としてきたらしい。

ボンネットにダイビング

よそ見していたのか、車と正面衝突。

ぶつかった勢いで、車のボンネットに乗り上げたが、悪運強く無傷。

というオッサン配達員がいた。

ボクが在籍中に、一瞬で永遠に語り継がれるような伝説を築いた専業さんなのだが、

事故と事件を起こして風の様に去っていった。

大雨の惨劇

他にも、大小様々な交通事故があったが、

朝刊配達時の事故が、比較的多かったように思う。

そんな仲間の事故の中で、目の当たりにして一番辛かったのは、相手の命を奪ってしまった事故だ。


大雨で視界不良。

顔を覆う透明な風防は、雨滴が流れて視界を妨げていた。

朝刊配達時で、歩行者がいるなど考えにくい状況でもあった。

そんな中、歩行していた高齢者を轢いてしまったのだ。

すぐに警察、救急車へ通報するも、

その高齢者は亡くなってしまった。


学費を稼ぐため、懸命に仕事をしながら進学し、

夢や希望に燃えている中で直面した悲劇。

亡くなった高齢者とその家族にとって、

大変辛く悲しい事故であったことは想像に難くないが、

その学生が齢20歳前後にして交通事故の加害者となり、

人命を奪った責任を負うことになった重圧は想像を絶する。

仲間の悲痛な運命に触れ、明日は我が身と、安全運転を心がけた。

交通事故を起こさないようにすることは当然だが、

交通事故を起こした時にどうするべきかなのか、

肚に決めておく必要があると思う。


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プロフィール

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40代、二児の父親です。 北国育ちで在住。寒いけど冬が美しいので北国が好きです。 思い出や、日常に思ったことを書き留め、それが誰かの何かの足しになったら、こんなボクの人生にも意味があったというもの。 「クスッ」としてもらえたら幸いです。

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